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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)6465号 判決 1981年11月24日

標記各併合事件原告

(以下、単に原告と表示)

福井順一

右訴訟代理人

長谷部茂吉

大井勅紀

昭和五四年(ワ)第九五一五号

事件原告訴訟代理人

荒木田修

標記各併合事件被告

(以下、単に被告と表示)

大洋観光株式会社

右代表者

福井雅英

右訴訟代理人

橋本正勝

高橋郁雄

徳田幹雄

昭和五四年(ワ)第九五一五号事件

被告訴訟代理人

西川紀男

主文

被告会社の

一  昭和五四年九月一七日開催の臨時株主総会における福井順一(原告)取締役を解任する旨の決議

二  昭和五六年一月一六日開催の臨時株主総会における増山保を取締役に選任する旨の決議

三  昭和五六年三月一二日開催の臨時株主総会における宇留賀公保及び渡辺幸男を取締役に各選任する旨の決議

をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判<省略>

第二当事者の主張

(原告主張の請求原因)

一被告会社は、キャバレー等の経営を目的とする資本金一、八五〇万円、発行済株式総数三万七、〇〇〇株(一株の額面五〇〇円)の株式会社であり、原告は、九、〇〇〇株を有する株主である。

二原告は、かねてより被告会社の取締役であつたところ、被告会社は、昭和五四年九月一七日開催の臨時株主総会において、福井順一(原告)取締役を解任する旨の決議がなされたとして、その旨の臨時株主総会議事録を作成したうえ、同月二〇日その旨の登記手続をし、また、被告会社は、昭和五六年一月一六日開催の臨時株主総会において、増山保を取締役に選任する旨の決議がなされたとして、その旨の臨時株主総会議事録を作成したうえ、同月二八日その旨の登記手続をし、更にまた、被告会社は、昭和五六年三月一二日開催の臨時株主総会において、宇留賀公保及び渡辺幸男を取締役に各選任する旨の決議がなされたとして、その旨の臨時株主総会議事録を作成したうえ、同月二七日その旨の登記手続をした。<以下、事実省略>

理由

一原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の各株主総会決議の瑕疵の有無について、以下判断する。

(一)  被告会社の発行済株式総数が三万七、〇〇〇株であり、うち九、〇〇〇株が原告の、五、九五〇株が被告会社代表取締役福井雅英の所有に属し、二万株がもと被告会社の自己株式に属するものであつたこと、昭和五四年九月一七日開催の被告会社の臨時株主総会における出席株主が原告と右福井雅英の二名であり、右株主総会における前記役員解任の案件について原告が反対し、右福井雅英が賛成したこと、昭和五六年三月一二日開催の被告会社の臨時株主総会における出席株主が原告と右福井雅英の二名であり、右株主総会における前記役員選任の案件について原告が反対し、右福井雅英が賛成したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第九号証によれば、昭和五六年一月一六日開催の被告会社の臨時株主総会において、当初原告及び右福井雅英の二名が株主として出席していたが、同株主総会における前記役員選任の案件の審議に先だち、原告は同株主総会が取締役会の決議に基くものではないとして異議を述べて退席し、右案件は右福井雅英一名の株主によつて決議されたものであることが認められる。

(二)  被告は、右各株主総会に先だつ昭和五四年八月一六日に右福井雅英は被告会社からその所有する自己株式二万株の譲渡を受け、二万五、九五〇株の株主となつた旨主張し、それが本件紛争の最大の争点になつているので、まずこの点について判断する。

<証拠>によれば、昭和五四年七月二三日開催の被告会社の取締役会において、被告会社の所有する自己株式二万株を被告会社の代表取締役である右福井雅英との間において、被告会社はその所有する自己株式二万株を右福井雅英に対し一株三、九〇〇円、合計七、八〇〇万円で譲渡し、右福井雅英はその代金七、八〇〇万円を同年一二月末日までに支払うとの内容の株式譲渡契約が締結されたことが認められる。したがつて、右事実よりすれば、被告の前記主張は理由があるようにみえないではない。

しかしながら、当事者間に争いのない事実及び<証拠>によれば、被告会社は、その資本金一、〇〇〇万円の全額を旧大洋観光が出資し、三洋観光株式会社の商号をもつて設立された会社であり、被告会社が右自己株式二万株を取得したのは、昭和五二年八月に右旧大洋観光を吸収合併した際、同会社が有していた右出資金の株式二万株を取得したことによるものであること、右旧大洋観光は原告の個人会社であり、したがつて被告会社もまた実質的には原告の個人会社であつて、原告の実子である福井雅英(同人が原告の実子であることは当事者間に争いがない。)が被告会社ばかりでなく、右旧大洋観光の代表取締役に就任したのもすべて原告の意向によるものであつたこと、原告は右福井雅英を被告会社等の代表取締役に就任させ、その経営にあたらせたとはいうものの、原告がそれらの会社から全く身を引いた訳ではなく、旧大洋観光にしてもその発行済株式総数一万五、〇〇〇株の六〇パーセントにあたる九、〇〇〇株を自己名義のものとして所有し、また、合併後の被告会社についても、その発行済株式総数三万七、〇〇〇株のうち自己株式二万株を除いた一万七、〇〇〇株のうち、九、〇〇〇株を所有する一番の大株主として、かつまた、取締役として、事実上相当な力を有していたこと、被告会社は旧大洋観光を吸収合併する前からかなりの赤字を計上し、それが黒字会社の旧大洋観光を吸収するきつかけとなつたのであるが、合併後も赤字体質の改善が図れず、そのため、被告会社は、代表取締役福井雅英の発案で、不採算店舗の処分等による経営の縮少と累積赤字の補填の実施に踏み切つたこと、右不採算店舗の処分等による経営の建て直しの方針については取締役であつた原告も賛同し、その実行をある程度代表取締役の福井雅英にまかせていたが、同人が次々に店舗の処分を企画しているのを知るに及んで、同人の経営方針に不信感を抱き、逐に昭和五四年七月、被告会社の中心的な店舗である中央区銀座六丁目所在のクラブ「クラウン」の店舗の処分をめぐつて、それに反対する原告と処分の実行を主張する右福井雅英との間で対立が生じ、ひいては被告会社の経営方針そのものについての見解の相違が表面化するに至つたこと、そこで、被告会社の代表取締役である右福井雅英は自分の経営方針を遂行するためには原告の持株数より多い株式数を持つ必要があつたことから、同月三日開催の被告会社の取締役会に同人が被告会社所有の自己株式二万株を一枚三、九〇〇円で譲受けることの承認を求める案件を提出したこと、同取締役会において利害関係人たる右福井雅英を除く四名の出席取締役で右案件を審議し、取締役である原告は現株主の株式所有比率からみて自己株式二万株は原告及び右福井雅英にそれぞれ一万株を譲渡すべきであり、右福井雅英のみに全株式を譲渡するのは反対である旨主張して右案件の否決を求めたが、他の取締役三名中取締役馬場要は賛否の表明を留保し、取締役小林国雄及び同江口哲男の二名が賛成したため、同取締役会は右案件は過半数の賛成により可決承認されたものとしたこと、ところで、右取締役会においては、「クラウン」の店舗の処分についても審議され、原告は反対したが他の取締役四名が賛成し、同店舗の処分が決定的となつたことから、原告は右店舗の処分を自力で阻止する挙に出て、売却予定先に断りの話を持ち込んだりしたため、右福井雅英は原告を被告会社の経営から完全に排除することとし、前記昭和五四年七月三日の取締役会において被告会社の自己株式の譲渡について賛否の表明を留保した取締役馬場要からも後日賛成の文書を受取つてはいるものの、後でそれらのことに絡んで先の取締役会の決議による承認の効力に疑義を差し込まれることを慮り、再度取締役会において自己株式全部の譲受の承認を得て万全を期することとし、原告の出席していない同月二三日開催の被告会社の取締役会に再度同一案件を提出し、出席取締役四名中利害関係人の右福井雅英を除くその余の取締役小林国雄、同江口哲男及び右福井雅英の妻の取締役福井純子三名全員一致により可決承認を得たうえ、これに基づき同月二七日前示のとおりの株式譲渡契約を締結するに至つたものであるこ判旨と、しかし、被告会社所有の右自己株式二万株の処置については、それより前の昭和五三年五月一七日開催の被告会社の取締役会において、原告及び右福井雅英に各一万株を一株五、〇〇〇円で譲渡することが利害関係人を除くその余の取締役全員の一致をもつて承認されており、かつ、原告と右福井雅英との間においても、自己株式二万株の処分についてはそれぞれ一万株を譲受けることについて了解されていたのに、前示一連の取締役会の承認決議や株式譲渡契約では、それら従前の経緯については全く考慮の外に置き、かつ、一株あたりの譲渡価額についての検討もなされず、専ら右福井雅英の前記の思惑に基つて取締役会の承認手続が図られ、契約締結がなされたものであること、被告会社の取締役会といつても、実際には右福井雅英と原告とが実権を握り、他の取締役には自主的な発言力はなかつたこと、そして、右福井雅英は、株式譲渡契約を締結するや、原告を排除して被告会社を自己の支配下に置くため、同年九月一七日の臨時株主総会を招集し、同総会において原告の取締役たる地位を解任するに至つたものであること、以上の事実が認められるうえ、更に、被告の主張するところによれば、右株式譲渡代金の支払として、右福井雅英は現金九七万五、〇〇〇円を支払つたほか、同人所有のマンションを二、八〇〇万円の支払に代えて被告会社に代物弁済し、合計二、八九七万五、〇〇〇円を支払つたというものの、右代物弁済したというマンションの所有権移転登記手続は未だ未了であり、本件最終口頭弁論期日の昭和五六年一〇月六日に至るまでに同人が支払つた金額は、被告の主張するところによつても、譲渡代金七、八〇〇万円のわずか1.25パーセントにあたる九七万五、〇〇〇円でしかないことは弁論の全趣旨から明らかであることからすれば、右福井雅英は右株式譲渡契約時においてその代金の支払能力はそもそもなかつたものとみざるをえないのであり、これらの諸事情を合わせ考えると、株式会社と右福井雅英との間の右株式譲渡契約は、たとえ、実親子間の経営に関する相異からの内紛であり、他人間の紛争に比べれば、互に許容し得る予地のあるものであるとはいえ、右福井雅英において、被告会社の実質的な創設者であり、かつ、一番の大株主である実親の原告を排除することを目的として、過去における自己株式の処分に関する取締役会の承認や原告との間の了解を無視し、かつ、譲渡代金の支払の確実性等についても意を払わずになされたものであつて、その目的、手続過程及び結果のいずれの点においても著しく合理性に欠け、右契約は信義則上、更にはまた、条理上許容しえない違法、無効なものといわざるをえない。

そうとすれば、右福井雅英は被告会社所有の自己株式二万株を取得するに由ないことになるから、その取得があつたものとして同人の所有株式数が二万五、九五〇株であるとの被告の前記主張は採用できないといわざるをえない。

(三)  そこで、次に、原告主張の各株主総会の決議についてみると、昭和五四年九月一七日開催の臨時株主総会に出席した株主は原告と右福井雅英の二名であり、同株主総会における原告の取締役を解任する案件について原告が反対、右福井雅英が賛成したことは前記のとおり争いのないところであるから、右案件は九、〇〇〇株を有する原告の反対により否決され、また、昭和五六年三月一二日開催の臨時株主総会に出席した株主も原告と右福井雅英の二名であり、同株主総会における前記役員選任の案件について原告が反対、右福井雅英が賛成したことも前記のとおり争いのないところであるから、右案件も同様に否決されたことになり、更にまた、昭和五六年一月一六日開催の臨時株主総会における前記役員選任の案件は右福井雅英一名の株主の出席によつて決議されたものであることは前記認定のとおりであるから、右案件の決議は、被告会社の発行済株式総数三万七、〇〇〇株中自己株式二万株を差引いた一万七、〇〇〇株の過半数の株主の出席を欠いてなされたことになるので、結局、右各株主総会における右案件がいずれも可決されたものとする本件各決議は、いずれも右説示の点に瑕疵のあるものであり、取消を免れないといわざるをえない。

三右の次第であるから、原告の本訴請求は、いずれも理由があるので認容することとし訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(海保寛)

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